■経営層の悩みのタネ「メンタル不調者対応」
経営層や管理職の人事における悩み事の一つに、「社員のメンタル不調への対応」があるのではないでしょうか。
はじめは安易に「病気なのだから少しの間会社を休んで、病院で治療を受ければいずれよくなるだろう」などと思っていても、実際には簡単にはいかないケースが多くあります。
例えば、メンタル不調による休職と復職を繰り返し、結局は十分に回復できずに退職となってしまったり、もしくは、休職して数カ月後に復職できたとしても本来の業務がこなせずに、サポートする側の他の社員が疲弊してしまったりと、会社・部署全体のモチベーションに影響することも珍しくありません。
また、休職が長期間に及ぶと、退職や解雇などの雇用問題にも発展しトラブルになることも多いため、企業としてより慎重な対応が必要となります。
■社員のメンタル不調
以前に比べ、メンタル不調に関する情報は書籍・雑誌やマスコミによる報道等によってかなり社会に浸透してきました。
ひと昔前ならば、例えば「うつ病で会社に出られない」というと「気持ちが弱いやつだ」「会社に甘えているのか」と言われてしまうこともあったかもしれません。
現在では、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが関与していることや、「脳の風邪」と言われるように、だれもがかかる可能性がある病気であることが広く認識されるようになりました。街にはメンタルクリニックが増え、精神科・心療内科を受診する精神的なハードルが低くなり、メンタル不調や精神疾患が特殊であるという印象は薄れていると思われます。
このような社会的背景もあり、企業規模にかかわらず、経営者や管理職がメンタル不調者の対応を迫られるケースが以前より増えてきたとも言えます。
■本人が自覚していなくても、どこか様子がおかしい場合
本人が不調を認識していなくても、出勤が不規則になったり、就業時間中に居眠りをしたり、能率が著しく下がっているような「いつもと様子が違う」と見受けられるような場合は、まずは本人へ専門医の受診を勧めましょう。
職場においては遅刻や欠勤が増えたり、離席が多くなったり、集中力が低下しているなど、家庭内では気が付かないような変化を上司や同僚が気がつくケースがあります。
本人が自覚しないまま放置すると、さらに状態が悪化してしまうおそれがあります。 また自分自身のパフォーマンスが低下していることに悩み、「もっと頑張らなければ」とさらに追い詰めてしまうこともあります。
このように、本人がうつ病に気が付かないまま放置することで、どんどん症状が悪化してしまうおそれがあるのです。
厚生労働省が定めている「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針、平成18年3月策定、平成 27年11月30日改正)の中でも、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行うことが職場においても重要であるとしています。
■会社を休ませるべき?「休職」とは?
社員が「うつ病により就労不可能」という主治医からの診断書を持ってきたら、会社としてはどう対応すべきでしょうか。
多くの仕事を抱えている管理職の方は、「いま一人でも抜けると仕事が回らなくなる」または「他のメンバーから不満が出てしまう」など、どのように対応していいかわからず動揺し、不安になることと思います。
しかし、このような場合は、やはり企業に課された安全配慮義務の観点からも、不調者を一時的に仕事から離し、休養させるべきでしょう。
一般的に、企業においては、怪我や病気などにより長期間出勤ができない場合の「休職制度」が就業規則に定められています。これを利用して、治療に専念させることが必要です。
「休職」とは、一定の事由が生じた場合に、会社が社員に対して労働契約を維持したまま、労務の提供を免除・禁止することをいいます。「休職」は法令上の定めがあるわけではありません。各企業において取り決められ、就業規則に定めるものとされています。休職制度には多くの場合、
1.休職の事由
2.休職の開始時期
3.休職開始時の手続き
4.休職期間中の賃金の支払いの有無
5.休職期間の上限
6.復職時の手続き
7.休職期間満了による退職時の手続き
などが定められています。また、復職支援プログラム等について定められている場合もあります。
休職させる場合は、就労不可能である旨とその見込み期間についての主治医の診断書を判断材料として、会社の休職規定に基づいて休職の期間を決め、社員に対して休職命令を発令することになります。
休職期間中の給与の支払いの有無、社会保険料の支払い方法、健康保険から傷病手当金を受けられる場合の説明や、休職期間満了時の退職についてなど、事前に、できれば本人だけでなく家族にも説明しておくと、安心して休職期間を過ごすことができ、本人や家族との無用なトラブルを避けることができるでしょう。
■不調者にはどのように対応すべきか。
まずは不調者本人から話を聞きましょう。この場合に重要なのは、①自分の感情を挟まずに、②会社のルールに従って、③徹底して聞き役になることです。
体調について、欠勤・遅刻・早退や仕事のパフォーマンス低下についてなど、主に労務管理上で問題になっていることを不調者本人と会社の共通認識とします。その際、本人の同意の上、できるだけ家族とも情報共有しながら対応を進めたいところです。
不調者本人のために会社はどんなことができるのか、家庭では治療・休養しながらどのように過ごすかを話し合うことで、協力体制をつくることが可能となります。
一方、病気のことを社内の人には話しづらい場合や、人事担当者がどのように面談すればいいか分からないこともあるでしょう。ぜひ早い段階で、産業保健の専門家である産業医を積極的に活用しましょう。
産業医とは、会社が果たすべき安全配慮義務の履行をサポートしてくれる医師であり、会社にとって大変頼りになる存在です。(産業医の探し方や相談の方法は、コラム「産業医って何をするひと?」を参照ください)。
また、社内でのハラスメントがメンタル不調に関係していることもあります。社会保険労務士などの専門家と連携し、メンタル不調対応と同時に本質的な問題の解決に当たることも必要です。
■まとめ 日頃からの心がけ
会社で働く人にとって、自分自身のメンタル不調やパフォーマンスの低下を上司に相談するのはとてもハードルの高いものです。早期に対応できれば、また元気に仕事に復帰できる可能性が高まります。退職や解雇などの雇用問題を避けることもできるでしょう。
そのためには、日頃から社員や部下との信頼関係を築いておき、不調になった場合にも早い段階で相談してもらえるような人間関係を構築することが大切です。また、
この機会に、休職制度や復職支援プログラムなどの規程類の見直し、産業医や社会保険労務士などの専門家との連携を今一度確認しておくことも重要なポイントです。